入門者を遠ざけるモノたち

剣道は初心者に厳しいスポーツ(?)(伝統芸能?)だなと思う。

私の場合40過ぎまで全くその世界を知らなかったので、かなり苦戦した(ている)。

どんな道であろうが初心者が苦戦するのは当たり前のことだとは思っていはいたが、私が特に驚き戸惑ったのは、その苦戦の原因のほとんどが”道具”に関することだったことだ。

以下、私の前に敢然と立ちはだかった道具たちを紹介する。

先鋒:紐

靴紐くらいしか結んだことがなかった私にとって、まずはこいつで躓いた。何度結んでも「それは縦結びじゃないか。死装束で使うものだぞ!」「大人のくせにそんなことも知らんのか」などと色んな先生にお𠮟りをいただく。

こちとら葬式なんて小学生の婆ちゃんの時以来だし、あいにく両親は健在なので、死装束の紐など結んだこともない。

結び方を訊くと「こうやってな、こうやってこうだ(ドヤ)」と教えられるのだが、相手と自分の向きが反対なせいか、何度やっても縦結びになってしまう。稽古が始まるのでゆっくり詳しく訊くこともできず、何となく結んでいるうちに外れてしまって叱られる。

家に帰ってYouTubeで学ぼうにも、紺色の道着に紺色の紐で「こうやるんです(ドヤ)」という動画ばかりで一向に理解が進まない。

これまた道着袴防具のありとあらゆるところが紐なので、結び方の拙さがジャブのように効いてくる・・・。

ボタンとかベルトにはしてもらえないものなのだろうか・・・。

次鋒:手ぬぐい

最初、手ぬぐいとタオルの違いが分からなかったので薄そうなタオルを持って稽古に行ったら呆れられてしまった。家に手ぬぐいがあるのが普通なんだろうか・・・。

それはそれとして、この手ぬぐいを上手く装着するのに苦労した。何度やっても面を着ける時に解けてしまう。たまたま上手にできても「後ろがピロピロしていて見苦しい」と叱られる。焦って何度も装着し直しているうちに「みんな待ってるんだから早くしろ」と怒鳴られる。

そもそも手ぬぐいを頭に巻くのは何のためなのか。髪の毛をまとめて、面との間にクッションを入れる目的ならば、手ぬぐいでなくてギャザーキャップのようなものが最適ではないだろうか。

https://makeshop-multi-images.akamaized.net/ryuna01/itemimages/005007000001.jpg←ギャザーキャップ

そりゃあ、昔はどの家にも手ぬぐいがあって、手軽だったから手ぬぐいを使っていたのだろうと想像するが、私の場合、家に手ぬぐいが無かったのでわざわざ買ってきて用意して、そしてそれを苦労して頭に巻くという有様。それだったら最初からギャザーキャップを買えばという気になってしまう、この理不尽さというか滑稽さにいたたまれなくなりました。

中堅:胴

先鋒の紐の兄貴分だが、こちらは人によって結び方が違うというレベチの難敵である。

先生方は丁寧に教えて下さるのだが、いかんせんアゴが下を向ける最大角度に限界があるため、どうしてもよく見えず、手探りが増えて理解に時間がかかる。

どうにかこうにか習得しても、違う先生に「そうじゃなくてこう!」と叱られる。人によって違うので。

それより何より一番困るのが、結んだ後で長さが変えられないこと。やっとの思いで結べたと思ったら胴が下がり過ぎていて、調節するのにまた解き直して・・・・あ”あ”あ”あ”あああああksdふあskdfdsふじこ。

リュックサックのバックルみたいに長さ調節簡単な仕組み考えようよ・・・。

副将:袴

頑張って装着しても、裾が上過ぎると格好が悪いといって叱られる。なるべく下にと思って装着したら、稽古の時にすっ転んで腰を強打して泣いた。(本当に痛かった)

小学生などの子供はずいぶん上の方で(足首丸々出して)装着している。危ないからだそうだ。大人だって上でいいじゃないか。一回転んで以来、踏み込むのが怖くて仕方がない。

そもそも、転倒の危険がある勝負服って、勝負に向いてなくないか?

ラスボス:面

いよいよ真打登場、面紐ぐちゃぐちゃで自力回復不能になるのは日常茶めし事、狭い視界で暗中模索に蝶々無びをやらされる苦難は本当に堪えた。

しかし防具店で左右に面紐ガイド通し穴のついている面を見つけたとき、「道具屋、やればできるじゃないか」と感激して速攻注文したものである。

http://www6.big.or.jp/~budogu/new/kendo/syo2l.jpg←こういう横にガイドのあるやつ

面紐ガイド通し穴さえあれば、その穴から紐を完全に外してしまわないかぎり面紐がぐちゃぐちゃになることはない。尚且つ、先生に怒られない位置で結ぶことができる。これは洋服のボタンに匹敵する”発明”だと思う。

面紐ガイド通し穴を発明できたのならあと一歩、コードストッパーのような、紐をギュッと締められる、強度のある仕組みがあれば尚良しである。

https://m.media-amazon.com/images/I/715gdffQOrL._AC_SX466_.jpg

これがあれば、「面付けまだ終わらんのか」とのたまわなければならない先生がたのストレスも少しは減らせるのではないか。

あともう一つ、耳穴は開けた方が良いのではないかと思う。面を着けてしまうと、先生のおっしゃることが聞き取りにくくなる。勝負の世界でも、相手の音、空気の音は重要な監視すべき要素となる。耳は打たない前提であるので、耳穴くらい開けても大事にはならないのではないか。

まとめ

ことほどさように、剣道という武道は剣を持って戦う以前に入門者の障壁となるポイントが多い。ただ、それらが作法や礼儀に関することならば、教わるべき「伝統」でもあるので致し方のないことだろう。

しかし、残念ながらそれらの多くはモノ、道具なのである。剣道人口の減少が業界で問題視される中*1、入門の障害はできるだけ除去するべきで、せっかく剣道の素質もやる気もある人が道具の扱いが難しいから入門を断念したとなると、大変に勿体ないことではないだろうか。

「いやいや、道具の扱いも含めて後世に伝えるべき伝統なのだよ」とおっしゃられることは百も想定済みである。そうおっしゃる方々は、袴にプラスチックのヘラが付けられたときに文句を言ったのだろうか。鉄の甲冑が革の胴だけになったときに「軟弱だ」と怒ったのだろうか。

武士が誕生した平安以来、武士の道、剣の道において武具防具はイノベーションを繰り返して発展してきたのだ。より使いやすく、より実用的に。

それを、たかだかある一時代(明治)の様式に頑なにこだわるというのは、伝統を守ることではなく進歩を止めることであろうと考える。剣の道(剣道)で伝えるべき伝統は、たかだか僅か一時代の防具の様式などという小さなものではなかろう。

道具は常に改良されるべきであるし、進歩を止めればだんだんと人が寄り付かなくなるのは真理であろうと思う。たかだか僅か一時代の防具の様式を守るために入門者を遠ざけて人口を減らしているとするならば、それは愚かなことではないだろうか。

番外編:マスク(コロナ対策)

本当に勘弁してほしい、ウイルスじゃなくて酸欠で死ぬ。大真面目に危険である。殺す気か(武道だけに)・・・。

余談だが、あれほどまでに明治時代の武具様式にこだわる剣道連盟のご老人かたがたが、マスクだけは推奨するのは少し整合性に反するのではないかと思ったりする。

ほんの数年前まで、「目上の人の前でマスクするのは失礼」とか言ってなかった???